読後感シリーズ

アウトプットの練習用です。

愛し四つ葉の可愛い君よ

「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを思ふころかな」っていう短歌が百人一首のひとつにあって、ざっくりいうと「風めっちゃ強い日の波が岩にぶつかっても波が砕けるだけなのと同じで、俺の心だけ砕けまくってて辛いっす」みたいな意味らしいんですけどね、去年の夏からじわじわこの哥が沁みてきてます。ぜんぶ君のせいだ。の緑色担当。よっちゃん、一十三四が脱退したことが今もまだ、時折荒波として襲いくるんです。源重之はアイドルに向けた想いとして書いてはいないでしょうけど、他人に向いた感情をこうも美しく痛ましく表すのはさすが三十六歌仙と謳われる方だなと素人ながら思います。思えば彼女は人生初めての「推し」でした。推しはソリッドな心に水面を作って凪いだり荒ぶったりさせる存在であるのを痛いほど知らされました。
こうして筆を執ったのは、落ち込むことはあれどやっと悲しむだけの段階を抜けてきたように思うので、ここいらで自分の心の整理をしようと思い立ったためです。彼女を知って脱退まではたった1年ちょっとで、目の前で見たことだって片手で数えるくらいでした。でも私は彼女に惚れ、心奪われて、こうして行きどころのない文を認めるほどになりました。まあ、落ちるのに1秒も長いくらいじゃないですか?だって相手は一十三四なんだから。

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ぜんぶ君のせいだ。に出会ったのはビレッジマンズストアの対バン相手としてだった。ぜん君。はおろかアイドルは未知の領域だった自分にとって、可憐な衣装を纏ったこれまた可憐な女の子たちから発されるエネルギッシュな歌声とダンス、観客1人も見逃すまいという視線はとにかく衝撃的だった。特に、可憐さの殻を突き抜けてシャウトを轟かすショートヘアの女の子から目が離せなくなっていて、終演後気づいたらチェキの列に並んでいた。私のTシャツに書かれた刺繍の文字を読み上げて、「ビレッジマンズストアの皆さんはすごいかっこいいし、学ぶことがたくさんあると思ったね!」と飄々と話す彼女、一十三四ちゃんはステージで見えたよりも等身大に女の子で、やっぱり可愛くて格好良かった。帰りしなにぜん君。のCDを配っているファン(なんだそれ)がいたのでありがたく頂いて、インポートしながら彼女たちのTwitterアカウントをフォローする。どうも彼女はよっちゃんと呼ばれていて、のらりくらりとした性格で、自撮りを定期的に上げていて、たまにファンとリプライで交流したりしていて、自分の可愛さを不遜に語り、言葉の節々からアイドルへの真摯さが伝わる子であると知った。個人的な話で恐縮だが、自分が可愛いことを自覚しめちゃくちゃ主張してくる女が非常に性癖なのでTwitter見た時点でドンズバに好きになっていた。次にYouTubeでMVを見た。最初に惹きつけられたのは彼女の咆哮だったが、なんだか掴みどころのないところを知ってからはその動静のギャップがさらに魅力的だった。「可愛い彼女にもなれるしセクシーお姉さんにもなれるしanan表紙系イケメンにもなれるんだぜ」とは彼女自身の弁だが全くもってその通りだと思う。転がしたガラス玉の反射のように様々な色を見せ、気まぐれに表情を変え、でもいつ見たって可愛かった。ころころした瞳を開いておどける彼女を画面で見つめていたとき、会えなくなる可能性なんて一度も考えなかった。
2回目に行ったライブは野音だった。咎憐无ちゃんの卒業ライブで、当時の最大キャパだったそうだ。グッズはひとつも持ってなかったから、とにかく緑の服を引っ掛けて日比谷にたどり着いて、ラババンと囲みチェキ抽選券を買った。囲みチェキが当たった。終演後の特典会で私は「可愛い…かっこよかった…」botと化していたが愛海ちゃんの「でしょ?私たちって可愛くて格好いいから最高なんだよね」という言葉に首がちぎれるくらいうなずいた。野音のライブは本当に楽しくて綺麗で、黄昏の中涙を堪えながら舞う4人の姿は神々しさと泥臭さが共存していた。野音が閉場した後も場所を変えて特典会は続いて、もう暗闇の小さな公園の中、ベンチコートを着たよっちゃんとチェキを撮った。「寒かったでしょ?待っててくれてありがとう、またねー」とサイン入りのチェキを手渡す彼女。全力のステージをこなして長時間の特典会にも対応しているはずの彼女が、写真で見慣れたようにふにゃっと笑って見送ってくれたから、優しくて泣きそうになった。ゆっくり休んでいっぱい好きなものに囲まれて欲しいと思った。それから体制が変わり、しばらく空いてクリスマスライブ。サンタ衣装と5人揃いの二つ結きの髪。初めて見た以来のライブハウスでの公演で、変わらずステージを狭しとダイナミックに動き回り、見るもの全ての心に刺し込む歌声と地の底から訴えるようなシャウトを響かせる。Cult Screamという曲で、始まりをよっちゃんが担当していた。苛烈な曲調で掛け合うようなシャウトが印象的な曲である。普段使わないような言い回しも多々現れることもぜん君。の曲の特徴だが、そこに肌をひりつかせるほど感情を込めて歌う。共感など生温い、わからせてくるのだ。華奢な彼女たちの情熱、苦悩、焦燥を全身で表現する。見逃せるわけがない、目が離せない。「出会いたいのはたったひとつの…」、訴えて、するりとお立ち台を降りるよっちゃんの横顔。サンタ衣装のスカートが翻り、残像で赤い稲妻を空に描く。激しい曲調の中切なげに舞う彼女が本当に美しくて大好きだった。ステージの照明で金糸のように光る彼女の明るい髪をずっと見上げていたいと思った。今こうして思い出してみても、どこをとっても一十三四は輝いていた。
ステージ終わりのチェキ会。「サンタ衣装!悩殺された?」と問いかけ、腕を組んでチェキを撮ってくれたよっちゃん。私は推しを目の前にしどろもどろでまともに話せなかった。腕を組んでいるのだってチェキを後から見て気づいた。小悪魔でセクシーでやっぱりかわいい。なお半ば無理やり連れてきた友人はその日ぼのちゃんに落ちていた。
そこからのZeppDiverCity、中野サンプラザ公演は赴かなかった。Twitterの公式アカウントやメディアに上がった写真の5人は広いステージをものともせずきらきら笑っていた。最後に5色で撚られた線が心電図を描き、ゆっくりと振れるのを止めた演出が映されたのだと参戦した方のツイートで見た。中野サンプラザ公演の後すぐ活動休止のアナウンスがあった。浅慮にも「またすぐ会えるから悲観せず楽しみに待っていよう」と思っていた。大舞台をこの目で見なかったのに、この時は気にしてさえいなかった。
それから。活動休止の報告から1週間もなかった。「一十三四、凪あけぼのの脱退のお知らせ」。文字を読んでも意味が頭に入ってこなかった。コメントを読み進めて、次第に心が絞られていくようだった。彼女を神格化するかのような感情を恥じた。彼女たちは文字通り自分を削ってアイドルをしている。煌めきは削った血肉の結晶だ。壮絶な覚悟。その刹那的な輝きを永遠と誤解していた。この文章は過去を振り返って書いているから格好付けて言葉を綴れるが、脱退の意味を理解したその時、脳に浮かんだ言葉はただ、「会いたい」だった。
好きなのはCult Screamだけじゃない。ねがねおじぇらすめろかおすの口上がよっちゃんらしさを全部詰めているし、せきららららいおっとの歌声はキュートさ200%だし、Greedy Surviveの振り付けはポップでダーク、病みかわいいの体現を見られるし、常花は少し吐息を混ぜて艶やかに歌うのが輝いて歌唱力の高さを示す曲だし、それから、それから。よっちゃんの魅力は語り尽くすことなんてできない。こんなにも言葉が止まらないのにどうしてもっと足を運ばなかったんだろう。もっと会いたかった。しっかりと目を見て伝えたかった。たらればは野暮だ。だけど後悔してしまう。会いたいも伝えたいも私のエゴで、それはよっちゃんを苦しめたものなんじゃないか。アイドルとファンはアイドルとファンでありその関係は他人だ。ナンセンスなのに脳が裂けそうなほど葛藤した。
脱退の報告から半月ほど経って2人の最後のライブが渋谷で行われた。副都心線に揺られている間、このまま辿り着かなければ終わらないんじゃないかと思った。起立して見るライブは半年近くぶりだった。感染防止のための注意事項がアナウンスされて人と人は距離を保っていたけど、ライブハウスで開演を待つ観客の姿は何も変わらなかった。だからやっぱり脱退しないかもしれないと本気で思った。いつも通り俯いて呟き5人がステージに上がる。初めからトップギアでライブが進んでいく。メンバーは、よっちゃんは客1人1人を見つけてくれる。「最後のライブだぞ!」と檄を飛ばすように告げられた彼女の言葉、全力のパフォーマンス、何度も涙で視界が濁った。最高に楽しくて最高に切ない時間が過ぎて行く。一筋縄じゃない可愛さと格好良さを持った真剣勝負の女の子たち、アイドル。何回だって惚れてしまう。
アンコールでのソロ曲、よっちゃんは解けた服のジッパーも構わず歌い叫ぶ。短い金糸の髪は額に張り付いている。この烈しさを一瞬だって見逃さないように目を開いた。全力の表現者は2本の足でしかとステージを踏み、体が割れそうなほど感情を振り絞って伝える、「あたしの事だけ見ててね」。そして曲が終わる。彼女はやり切ったように首を空にもたげて、天を仰いでやはりふにゃと笑っていた。再びメンバーが揃って、最後の曲は「僕喰賜君ノ全ヲ」。よっちゃんに逢えて本当によかった。よっちゃんが推しだったから、私の心は狂喜乱舞したんだよ。一度もちゃんと伝えられなかった。「ありがとうございました!!」と深々と頭を下げる5人が、ライブの終わりを告げる。よっちゃんは「ありがとう以外ないね」と少しニヒルに笑って言う。愛海ちゃんによれば、そのうち新しい冷蔵庫を買うらしい。あんなにも魂をぶつけて歌う姿は気づけば捉えどころのない女の子になっていて、最後までこの目まぐるしさを見せてくれたことが愛おしかった。
ライブハウスを出て暗くなった渋谷の路地を歩く。頭はもう逢えないことを信じていないのに、帰るしかなくなった体が真実を語っていて崩れそうだった。瞬きを忘れてカラカラだった瞳は次第に潤い、そのうち止めどなくこぼれ落ちた。公式のライブ写真、音楽メディアの記事、彼女のTwitterの更新。全てに「最後」が冠されていた。ひどい目眩を起こしそうで帰ってからすぐに布団に潜った。次の日の朝もう一度彼女の最後のツイートの「あばよ!」を見て、それはライブでの最後の言葉と同じだったから、やっとライブに行って良かった、と口にすることができた。
そこからのぜんぶ君のせいだ。はとにかく激動だった。ましろちゃんの脱退、新メンバー加入。更に加入。正直感情は全く追いつかなくて、よっちゃんの声を聞くと感情を脳が理解する前に涙が勝手に伝うから、曲もしばらく聴けなかった。7人体制のオンラインリリイベでCult Screamが始まった時、よっちゃんがいないことをまざまざと思い知って、パソコンの前で頽れた。これはよっちゃんのいないぜん君。を認めないとか、もう2度と見ないと誓ったとかいう話では決してない。むしろ初期の頃からのメンバーの相次ぐ脱退、短期間でのメンバー加入、コロナ禍など強大な壁が立ち塞がった中でグループを続けてくれて、また会おうと言ってくれることは本当に格好良いと思うし、もっと応援したいと思った。このダブルスタンダードな感情が苦しかった。
時間は解決はしないが感情を希釈してくれて、さらにかき混ぜる役割は忙殺だったりして、気づけば3月も後半になった。リリイベもやっと見られるようになった、かわいい。さみしくないと言ったら大嘘だが、やっとなんとなく気持ちの扱い方がわかってきた気がする。心に棘が刺さり続ける限り、私は一十三四を忘れないでいられる。一十三四が好きだと言い続けられる。一度掴んだ心は絶対に離さない、罪作りな女の子。病みかわいいを教えてくれた女の子。アイドルを教えてくれた女の子。気まぐれでわがままな女の子。私の初めての推しの女の子。あんなに苦しんだのにやっぱりどうやったって貴女が大好きだよ。君のせいでこんなにも楽しかった。ありがとう以外ない、とは言えないほど伝えたいことが沢山ある。でも沢山ありがとうって言いたいよ。一十三四でいてくれて本当にありがとう。貴女が推しで本当によかった。愛せてよかった。…ねえ、これから沢山心の中でお会いしますが、まずは挨拶程度から…。あばよ!よっちゃん!元気でね!

『女心は乱気流!一十三四「え、かわいい…」妖精強制光合成!』

 

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